久々の読書関係の更新です(読書の町宣言をしている大子町、手本は大人からということで読んだ本をアップしています)。
今回読み終えたのはアメリカの作家フラナリー・オコナーの全短編集の上巻です。さわやかな読後感とは無縁、一編読むごとにやりきれなさがずっしりと胸にこたえ、あとあとまで引きずります。
内容(「BOOK」データベースより)
フラナリー・オコナーは難病に苦しみながらも39歳で亡くなるまで精力的に書き続けた。その残酷なまでの筆力と冷徹な観察眼は、人間の奥底にある醜さと希望を描き出す。キリスト教精神を下敷きに簡潔な文体で書かれたその作品は、鮮烈なイメージとユーモアのまじった独特の世界を作る。個人全訳による全短篇。上巻は短篇集『善人はなかなかいない』と初期作品を収録。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
オコナー,フラナリー
1925‐1964。アメリカの作家。アメリカ南部ジョージア州で育つ。O・ヘンリー賞を4回受賞し、短篇の名手として知られる
横山/貞子
1931年生まれ。京都精華大学名誉教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
フラナリー・オコナー、アメリカ文学ではメジャーですが、日本ではそこまで知られた存在ではありません。現在手に入るのはちくま文庫ですから、本屋さんをぐるぐるしていてオコナーを見つけて手に取るのもまた難しいと思います。
本の感想はこれから読まれる方のために最小限にとどめます。
今回伝えたいのは読むに至った経緯です。
本や音楽、絵画などひとつの気になった作品から派生してどんどん掘り下げていくと、数珠つなぎにいろいろな事柄がつながって、知識はもちろん理解や感性も深まります。
今回はオコナーを読むに至った経緯をしっかり覚えているので参考に記しておきます。
・村上春樹「騎士団長殺し」
きっかけは去年の秋口に読んだ「騎士団長殺し」。作中にブルース・スプリングスティーンの「ザ・リバー」がキーとなって出てきます。
団塊ジュニア世代なら分かっていただけると思いますが、ブルース・スプリングスティーンは「ボーン・イン・ザ・USA」のマッチョなイメージが強く(本当は政府批判、反ベトナム戦争の歌ですが、何も知らない当時小学生だった私にはいわゆるアメリカンロックに映りました)、後回しにして大人になってもなかなか聞く機会を持ちませんでした。
・ブルース・スプリングスティーン 「ザ・リバー」から「ネブラスカ」
ところが、「ザ・リヴァー」を聞いたら名盤中の名盤でした。ボブ・ディランにノーベル文学賞が与えられるのなら、ブルース・スプリングスティーンにもあげるべきです(どちらも好きです)。すっかりはまって何度もリピート。そうすると、他のアルバムにも興味が出て、ザ・リヴァーに勝るとも劣らないアルバム「ネブラスカ」にたどり着きます。
難解とも言われるネブラスカ。
【1982年作品】82年9/20発売(日本発売’82年10/9)。Eストリート・バンドと距離を置き自宅の4トラック・カセット・レコーダーで録音された”ソロ”・アルバム&アコースティック作品集。アメリカが抱える普遍的な問題や身の周りで起こる出来事、厳しい暮らしを強いられ、ときには犯罪や殺人に走る人びとを登場人物にした物語を歌う。タイトル曲は実際の連続殺人事件を基にしている。大半の曲がライヴでもよく歌われ、多くの歌手にも取り上げられている。以降の世代のソングライターたちにも影響力の大きいアルバムとなった。当時のファンの間では賛否両論あったものの初登場29位。10/30より4週連続3位。秀逸なジャケット、ブルースの本当の生の姿が切々と語られているその内容にこのアルバムをBESTと呼ぶファンやアーティストも多い。〈ゴールド・ディスク獲得〉
・「ネブラスカ」からフラナリー・オコナー
このネブラスカ。犯罪撲滅とかそういった観点は全くありません。荒い録音で淡々と重ねられる犯罪を題材にした曲が続き、アメリカ、ひいては人間社会、わたしたちの生活を浮かび上がらせます。
そして、このネブラスカの制作前にブルース・スプリングスティーンが熟読して、インスピレーションを得ていた作家がフラナリー・オコナーだったのです。
一編読むごとにずっしりとくる重み。やりきれなさ。ネブラスカも聞いた後はどんよりと苦しくなってきます。
決して楽しいことではありませんが、私たちの身の回りに確実にある矛盾や醜悪さが描かれています。そしてそれは私たちの身の回りに無関係に存在するのではなく、私たち一人一人がそれを抱え、矛盾に満ちた社会を形作っていると言えます。
さて、もう一つが短編集の読み方です。
昔はどんな小説でもがむしゃらに次から次へと間を置かずに読んでいたのですが、特に短編の場合、その場での感動があっても、次の作品の印象にかき消され、忘れてしまうことがよくありました。
そこで今は複数の本を同時に読むことをやっています。
・メインの小説(長編や中編)
・短編集
・エッセイ集
の3つを同時進行させます。
普段の読書のメインは長編、あるいは中編。こちらは長丁場になるのでそう簡単には内容は忘れません。
短編は一つ読んだら、他の小説やエッセイに移り、整理がつくまで胸においておきます。そしてまた整理がついてから次の短編へ進みます。
エッセイは夜寝る前など、疲れた時に。忘れてもまあ、差支えはありません。
ですからオコナーは読み始めたのは確か6月くらい。ひとつひとつ時間を置くので読み終わるのには時間がかかります。
6月の読書ノートを見返してみると、他に黒井千次の長編「カーテンコール」、同じく黒井千次の再読で長編「春の道標」、吉行理恵のエッセイと短編集「湯船に落ちた猫」を並行して読んでいます。
厳密に3冊別ジャンルというわけでもなく、中編小説を並行して読む場合もあり、その読み方は短編集と同じです。
読み終わってから時間もたちましたが、読後感はもちろん、細部もわりと覚えています。読んでも忘れてしまうという方はおすすめですよ。