読書の町宣言!石の肺/佐伯一麦

佐伯一麦(さえきかずみ)のルポ、「石の肺~僕のアスベスト履歴書」です。

 

佐伯一麦と言えば、ア・ルース・ボーイ!

青春文学の金字塔。

進学校の退学。赤ん坊。仕事と生活。

まだバブルの余韻の残る僕の高校時代、真摯に生きること、まっとうに生きることを教えてくれた名著です。

 

上記のア・ルース・ボーイはじめ、著作のほとんどは私小説の形式。

創作にあたって多少の脚色はあるものの、佐伯氏自身の歩みが作品の軸になっています。

 

佐伯さんはドロップアウトしてから、専業作家になるまで主に電気工として生計を立てていました。

今でこそアスベストむき出しの中で作業するなどとんでもないことですが、当時はそういった条件の仕事が危険性の認識もないままたくさんあったようです。

佐伯さんも電気工事の際のアスベストの被害者。

ビル天井の狭い中でアスベスト吹き付け現場の電気工事をやったことが、現在まで影響しているのです。

ぜんそくと肋膜炎、そして肺がんへの怯え。

 

で、アスベスト被害のルポタージュなのですが、ノンフィクションにありがちな国や企業への糾弾、正義を振りかざすことはまったくありません。

淡々と、冷静に、時に愛情さえ感じさせるほど、当時の状況を振り返ります。

 

文中にもありますが、アスベストのおかげで発展もあった、その一面も彼は見逃していません。

もっと言えば、みな、アスベストを含む「社会悪」に目をつぶりつつ、恩恵を享受してきたでしょう?というスタンスかと思います。

繰り返しますが、糾弾ではありません。

言うべきことは厳しく主張しますが、必要以上に正義をかざさない。

 

3丁目の夕日の話がちょっと否定的に出てくるのですが、もしかしたら「石の肺」は80年代のウラ三丁目の夕日なのかもしれません。

アスベスト被害について知りたい人はもちろん、時代の空気の匂い立つ文学作品としてもどうぞ。

 

2014 J-Popベストアルバム 1位

さて、ようやく終了。

2014年 J-Popベストアルバム1位です!

 

シャムキャッツ/After Hours

 

ご存知のない方のために、まずは彼らの代表曲2011年リリースの「渚」。

JPop史上に残る大名曲です。

しかしリリースは2011年3月9日。

そう、震災の2日前のリリース。

で、このビデオですから、日の目を見られませんでした(´・ω・`)

~砂の気持ちになったよ どこに行こうが 勝手だよ

 

砂浜は膨大な人間の歴史が流れ着く場所。

音楽の世界だけで言っても、21世紀に生きる私たちにも到底処理しきれないほどの先人の音楽があります。

知れば知るほど、すでにやりつくされている感覚。

物を作る人間であれば、一度はぶつかる壁です。

その砂浜で、先人の音楽を拾っているにすぎないと気づいたとき、シャムキャッツは海に向かいました。

砂浜で拾う人間から、砂自体になることへの飛躍。

海に向かったバラバラの個の音楽。

海に溶けて、シャムキャッツは無限の可能性に気付いたのです。

 

そしてこれは2011年から2012年の話。

上記「渚」を含むアルバム「たからじま」を経て、2014年初頭に出したのが「After Hours」。

 

一言でいうなら、時代を切り取ったアルバム。

結果的に時代を切り取ったアルバムは多々ありますが、意識的に時代を切り取ろうとするアルバムは少ない。

シャムキャッツは正直言って、「今の一般的若者」からは外れています。

その彼らが、たとえば下北周辺のアートな若者を描いてもしょうがない。

彼らがやろうとしたのは、例えば同級生(友だちでない)のリアル、ヤンキーのリアル、働く者のリアル、学生のリアル…それをアルバムを通して表現することです。

30代以上であれば、小沢健二の一時期のスタンスを思い出すかもしれません。

 

今を切り取る徹底した鳥瞰図的な視点とズームアップ。

アルバムの世界観が、このビデオでも表現されている気がします。

「models」

モデルじゃないですよ、複数形、モデルズです!

アルバムを読み解く重要なポイント!

~なるべく長く続ける為には ちょっとした工夫もいるんだなんてこと 若いなりに彼は考えている

歌詞もついてるんでじっくりどうぞ。