スクラップ・アンド・ビルド/羽田圭介
だいぶ間があきました、冬頃の読了、スクラップアンドビルドです。
芥川受賞以来、テレビへの露出も増えたので、ご存知の方もきっと多いでしょう。
内容(「BOOK」データベースより)
「早う死にたか」毎日のようにぼやく祖父の願いをかなえてあげようと、ともに暮らす孫の健斗は、ある計画を思いつく。日々の筋トレ、転職活動。肉体も生活も再構築中の青年の心は、衰えゆく生の隣で次第に変化して…。閉塞感の中に可笑しみ漂う、新しい家族小説の誕生!第153回芥川賞受賞作。
又吉直樹の受賞があまりにも話題になっていますが、こちら羽田圭介も特異なキャラクターで作家としては精力的にメディアに露出しているようです。
さて、受賞作の「スクラップ・アンド・ビルド」。
ネット評などでは介護がテーマのごとく扱われているようですが、介護は下敷きに過ぎないと思います。
ネタバレになるので多くは書きませんが、
細かくは世代間ギャップ。
大きくは、「現代人にとって生きるとは?」を模索しているのでないかと思います。
そもそもがスクラップアンドビルド。
スクラップして、再構築。
主人公の再構築。
祖父の再構築。
祖父にどうしても焦点が移りますが、着目すべきは前半。
まともに受け止めると「これで芥川賞?」といった筆致。
これは明らかに故意。
前半の主人公視点の祖父観、世界観は驚くほどにつたないのです。
祖父の気持ちになって、母の気持ちになって、彼女の気持ちになって、あの年代はこうだから、僕らはこういう環境だから、こういう世の中だから...
どんなに相手のことを推し量ったつもりでも、前半の主人公は上滑り。
すべてリアルじゃない。
そして、中途半端に相手を分かったつもりで進む(自分では相当相手を理解したつもりで)のが物語のミソ。
そのまま受けちゃうとただの介護小説になってしまいます。
「祖父ってなに?」はスタート地点。
祖父ってなに?から始まって、
「僕ってなに?」
にたどり着くのです。
その過程にあるのは、今までのスクラップ。
そして、これからのビルドアップ。
一見よくある自分探しの話に感じるかもしれませんが、
上の世代も、下の世代も、
全くゼロなわけでないから厄介。
戦後50年をとうに超え、実はモデルが出来上がりつつある現代。
モデルがあるから、旅に出ようにも出られない。
どこにも行けないから、語りたくなるし、評したくなって、周りが見えなくなります。
ラストは、
祖父、母というバックグランド、世代を越えて、
新たな地へ。
実にしょぼい旅へ。
でもそれが新しくビルドアップしていく自分。
その半端さが、すごく新しいし、現代的なのです。
羽田圭介、学び舎を始めたころ、文藝賞を高校生で受賞して衝撃を覚えました。
あれから、10年超。
すごいビルドアップ、おめでとうございます。