鏡川/安岡章太郎

 

私の胸中にはいくつかの川が流れている。幼き日に見た真間川、蕪村の愛した淀川、そして母の実家の前を流れる鏡川だ―。明治維新から大正、昭和初期までを逞しくも慎ましく生きた、自らの祖先。故郷・高知に息づいた人々の暮らしを追憶の筆致で描く。脱藩した母方血族、親族間の確執を恋慕、母が語ったある漢詩人の漂泊…。近代という奔流を、幼き日の情景に重ね合わせた抒情溢れる物語。(BOOKデータベースより)

 

安岡/章太郎
1920(大正9)年、高知市生れ。慶大在学中に入営、結核を患う。戦後、カリエスを病みながら小説を書き始め、’53(昭和28)年「陰気な愉しみ」「悪い仲間」で芥川賞受賞。弱者の視点から卑近な日常に潜む虚妄を描き、吉行淳之介らと共に「第三の新人」と目された。’59年「海辺の光景」で芸術選奨と野間文芸賞、’81年「流離譚」で日本文学大賞、’91(平成3)年「伯父の墓地」で川端康成賞を受けた(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)(BOOK著者紹介情報より)

 

 

日本文学必読の「海辺の光景(かいへんのこうけい)」の安岡章太郎。

 

作者80代後半の作が「鏡川」です。

大佛次郎(おさらぎじろう)賞も受賞しているように、自らの血筋をたどる歴史的、ルポ的な性格の強い作品です。

明治期から昭和まで、とっかかりのある人物に焦点を当てながら、近代から現代への移り変わりを描きます。

 

ですが、

そこは小説家。

ただ歴史上の事実を拾い上げて記録しただけではありません。

 

ところどころ、

ここは明らかに創作だろうという箇所が。

 

系譜中、もっとも作者が親近感を覚えたのではないかと思われる西山麓(にしやまふもと)。

漢詩で一部有名だったそうですが、一般の人は普通知りません。

その西山麓ですが、実に魅力的な人物で描かれています。

特に後半は、一つの完結した小説のようになっています。

 

また、寺田寅彦(とらひこ)が安岡章太郎の親戚だったというのも驚きです。

寺田寅彦は、物理学者としての顔だけでなく、名文家としても有名。

ひょうひょうとして、無駄のない、独特の語り口で面白い文章を書きます。

実は国語のテキストの常連でもあり、学び舎生の皆さんも間接的に読んでいるはずです。

各学年に一度は出てくると思います。

今度、気をつけて読んでみましょう。

 

 

ですが、

この鏡川、正直に言って読みにくいです。

安岡章太郎をまだ読んだことがないという人は、

「質屋の女房」、「海辺の光景」から入りましょう。

また、一族の歴史を軸に、幕末の歴史を描いた「流離譚」もあります。