内容(「BOOK」データベースより)
「私の事件を映画化なさるそうですが、主演させてください」―ある日、サンテ刑務所から1通の手紙が舞い込んだ。犯行者との息を呑むような文通のあと、面会を求めて渡ったパリで、数々の奇怪な出来事と遭遇する。虚実の境をわたり、幻想のあやなしにあらがいながら、劇的想像力が照らし出す極限の「愛」―カニバリスム。1981年6月、パリで起った人肉事件の謎に迫る衝撃の話題作。芥川賞受賞。
実話をもとにしたこの作品。題材が題材だけに特にこの21世紀の空気の中でこれを読むとちょこちょこ不謹慎に思える箇所が多く出てきます。
ただ、作家は善悪を語ることが商売なのではありません。作家にできるのは「現実」を探ることです。この場合の「現実」とは、実際に起きたことだけを意味しているのではありません。起きるはずだったもの、起こったかもしれなかったもの、起きてはならなかったことすべてをひっくるめて現実です。真実と言い換えてもいいかもしれません。より事件の本質を表現できているのであれば、それは現実をあぶり出したと言えるのです。
巻末にも付記されているように、当時のマスコミはこの事件を面白おかしく報じます。そこには数多くの「本当のこと」が抜け落ちてしまっています。その違和感から作者は「物語」のフォーマットを使って起きた「現実」を知ろうとしたのではないでしょうか。
私が小学生に上がらない頃の作。この事件は全く知りませんでしたが、作者の興味本位的な態度や被害者軽視も含め、嫌な読後感が残りました。
この嫌な読後感こそ、私たち自身に潜む狂気の証拠であり、下衆なマスコミを支えてしまっている力なのかもしれません。